漆掻きは掠奪産業か?
漆掻きは掠奪産業か?
ある県立図書館で市町村史をめくり、その地の漆掻き技術について調べていた時のことです。「漆産業(漆掻き)は掠奪産業であり、衰退することあるいは消滅することは当然である」旨を1行、2行記した文献を数点拝見しました。漆掻き技術ではなかったために複写はしませんでしたが、「漆掻きは掠奪産業である」の一文が心に引っ掛かったままです。漆業や漆掻きに関する文献では、「掠奪産業」という文字はこれまで一度も見たことはありませんでした。同じ日に数度も目にすると心穏やかではありません。執筆者が同一の方であるのかもしれません。県全体がそういう見方やとらえ方をしているということではありません。
『広辞苑』(第5版)で「りゃくだつ」を引くと「かすめうばうこと。むりやり奪い取ること。」とあります。漆掻きさんは、ウルシの木からむりやり漆液を奪っているということでしょうか。漆液が採取された後にはウルシの木は枯れ死あるいは伐採されてしまうことを指しているのでしょうか。漆液を収穫し、その後はウルシの木を放棄する作業形態を問うているのでしょうか。
漆液採取という漆掻きは、自然の有効活用である考えます。また、天然資源の再生産にもつながるものです。藩政時代からのウルシの木は今でも各地に残ります。伐採すると萌芽更新により生長します。
さらに、漆液は省資源型の塗料です。漆液を塗った漆器は、たとえば汁椀は一生使えるものであり、一度購入するとその後の無駄遣いはなくなり捨てるものもなくなります。また、塗料としてだけでなく医薬品への利用が検討される現在では次世代を担う素材ともいえるのです。(腹痛時には生漆一滴を飲むという漆掻きさんは多いです。小麦粉と混ぜて丸薬として服用する方もありました。)
漆掻きさんは早朝から夕方まで一人で山に入り、ウルシの木の前回の傷口や内樹皮を観察し葉の様子を見ることを通して、ウルシの木の声に耳を傾け作業を進めている漆掻きさんが多いのです。また、漆掻きを通じて日本の伝統を守っている、日本の美を支える一端を担っていると誇りを持ち、日々山に出かけるのです。漆掻きさんに深く接するほど、漆掻きという仕事なり作業なりに「掠奪」という文字を結びつけことは相応しくないと考えます。
執筆者プロフィール
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昭和30年 青森県三戸郡新郷村谷地中に生まれる。
昭和52年 弘前大学 工業試験場 漆工課卒業
昭和52年~ 教職に携わり夏休み中に全国の漆産地を行脚
平成8年~ 平成21年度青森県史編纂調査研究員(文化財部会推薦)
平成28年~平成31年3月 青森県新郷村教育委員会教育長
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