五感で涼を

文と写真:中根 多香子

カランコロン
浴衣をまとい、暑気払いに近所へお出かけ。
漆の下駄が奏でる軽やかな音に心もはずみます。

 

下駄は輪島の祖母が大切に仕舞っていたもの。
赤い鼻緒が私には小さめでしたので、鼻緒だけ好みの色とサイズにすげ替えてもらいました。
おかげで歩きやすくモダンに仕上がり、夏のおしゃれのとっておきです。

そっと素足をすべらせると、ひんやりとした感触にまずうっとり。
そして、漆特有のしっとりしたあたたかさに包まれて、心が和らぎます。
ふだんは手のひらで漆を愛でますが、足の裏と漆がぴったりフィットして、えもいわれぬ心地よさなのです。

 

蒔絵で魚たちが描かれた漆盃に、キンと冷えたお酒を注ぐと、今にも悠々と泳ぎ出しそう。
愛用する漆のスプーンでかき氷をいただくのは口福ですし、漆のタンブラーで飲むハイボールは夏の夜の愉しみのひとつ。
下地に使われる珪藻土のおかげで、保温性だけでなく保冷性にも優れている輪島塗は、氷が溶けにくく、結露も気にせずくつろげます。

四季おりおりに漆とふれあうことで、感覚がゆっくり研ぎ澄まされていくのです。

 

音で涼をとる風鈴、ふわりと香る白檀の扇子、見た目にも涼しげな打ち水、そして夏きもの。
蒸し暑い夏をより快適に過ごすために、日本人は五感で涼をとる工夫を重ねてきました。
あわただしい現代こそ、伝統の知恵や工藝品をくらしの中に受け入れて、夏の風情をたっぷり愉しみたいものですね

執筆者プロフィール

中根多香子
中根多香子
漆芸プロデューサー / 箸文化大使

JAL国際線CA・要人接遇を経て、YUI JAPAN設立。「うるしのある麗しいくらし」をテーマに、心豊かなライフスタイルを提唱。美しい伝統を大切に、輪島塗、和の作法など日本の美意識を国内外へ伝え続けている。ウルシネクストパートナーとしてSDGsにも注力、漆を通じて平和で持続可能な社会を目指している。

公式Webサイト
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