特定非営利活動法人ウルシネクストは、漆と社会をつなぐ活動に取組み、漆の文化と伝統が守られ、さらに漆の利用活用が拡大されることで、自然と共生した持続可能な社会が実現されることを目指しています。

漆とは

漆はとても優れた天然の素材

漆はウルシの幹に傷をつけることにより内樹皮で分泌される樹脂と木部の樹液の混合物です。漆はいったん乾燥すると極めて固く、酸、アルカリ、熱、湿度につよく、さらに抗菌作用もあり、アレルギーを引き起こすこともありません。

また漆の採取、精製、塗り、乾燥という一連の利用工程においても、大量の水や電気使うなどと余計なエネルギーを消費することもありません。環境破壊や汚染とも無縁な極めて優れた素材なのです。

日本では縄文時代から使われてきた

世界最古の漆を使った品は今から9000年前の縄文時代の遺跡から見つかっています。縄文時代の遺跡からは漆塗りの器や耳飾りや首飾りといった装飾品など数多くの漆工品が出土します。縄文時代の人々は漆の特性を知り、それを上手に取り入れて生活していました。

漆は日本の文化そのものである

弥生時代を過ぎて古墳時代以降、漆は様々なものに使われきました。法隆寺玉虫厨子、唐招提寺鑑真和上坐像や興福寺阿修羅像、正倉院に収められた数々の御物、宇治平等院鳳凰堂、中尊寺金色堂、金閣寺、銀閣寺、日光東照宮など時代を問わず、日本の歴史と文化を象徴するものに漆は使われています。

世界の中の日本と漆

安土桃山時代には、南蛮漆器と呼ばれる日本の漆工芸品がヨーロッパに輸出されるようになります。漆にしか出すことができない漆黒と呼ばれる深い黒色や、繊細な技法による装飾をほどこした家具や漆器はヨーロッパ人を魅了しました。

漆によって、古くから日本は優れた技術、芸術、文化がある国として世界に認められてきたのです。

日本の魅力と漆

蒔絵といった繊細な漆の技法を駆使した数々の工芸品は海外でも人気で、日本の伝統文化として高く評価されています。また世界遺産登録された世界中で人気が高まっている和食についても漆器なくしては成り立ちません。さらに訪日外国人の人気スポットである伏見稲荷大社、厳島神社、東大寺、金閣寺などの歴史的建造物にも、いずれも漆が使われています。

漆は日本の歴史と文化そのものであり、日本を魅力的な場所にしている縁の下の力持ち的な存在なのです。

漆をとりまく状況

漆の国内自給率はわずか5%

高度経済成長とともに、石油化学の発展、ライフスタイルの変化などから漆の需要は大幅に減少しました。加えて高価な国産漆より比較的安価な中国産漆への依存は長年変わらず、現在でも国内で使われる漆の95%が中国産に頼っています。

国宝・文化財を修復する漆が足りない

神社仏閣を中心とする日本を代表する歴史的建造物には漆が使われており、継続的な修復によって維持、保存されています。

日本の漆を使って作られたものは日本の漆を使って修復することが基本です。国は国宝や重要文化財の修復には国産漆を使う方針を示し、必要な国産漆の量を今後80年間に渡って年間約2.2トンとしていますが、減り続けた国産漆の供給量は1.8トン程度しかありません。

過度に外国産漆に依存した脆弱な産業構造

国内需要の95%を中国産に頼り、残り5%の国産もほぼ国宝や重要文化財の修復に使われる現在、国内各地の伝統工芸や漆器製造においては、使われる漆のほぼ全てが中国産漆で、国産漆は使いたくても手に入らないという状況です。

日本は江戸時代から中国や東南アジアから漆を輸入し、国産漆とブレンドして使うなどしてきた歴史がありますが、長年中国産漆に依存している状況は現代でも変わりません。

漆器=合成漆器という現状

現在、市場に流通している多くは「合成漆器」です。塗装全てに天然の漆のみを使用したものが「漆器」で、天然の漆以外の塗料を使ったものは「合成漆器」となります。今や多くの日本人にとって漆器とは合成漆器を意味します。

大量生産、大量消費の時代にあって合成漆器の市場席巻は当然の流れであり、合成漆器なくしては今日の私たちの生活も不便を強いられますが、漆器本来の価値が忘れられ、似せて作られた合成漆器が漆器として使われているのが現在の日本の状況なのです。

漆は簡単に増やせない

漆は簡単に増やすことができません。

漆を増やすためにはまずウルシの木を増やさなくてはなりませんが、苗を植えてから漆が採れるようになるまで10年〜15年かかります。漆はウルシの木に搔き傷を付けてしみ出す液を1滴1滴集めて採取されます。数ヶ月かけて1本のウルシの木から採取できる漆はわずか200ccです。そして漆を採取したウルシの木の多くは1年限りで伐採されます。

現在、この漆を採取する漆掻き職人さんは全国でも50人程で高齢化も進んでいます。漆掻きに使う道具に至ってはわずかに1人という状況です。

漆を増やすには「木」も「人」も増やさなくてはならず、時間もかかり簡単なことではありません。

漆掻きの様子を動画でご覧いただけます。

私たちの念い(おもい)

日本の文化・伝統・産業を守っていきたい

国宝や重要文化財をしっかりと維持管理することは現代に生きる我々の責務ですが、現状の国産漆の生産量ではこうした文化財を十分に修復することができず、守っていくことが困難です。

伝統工芸や漆器産業においては漆の供給は足りているものの、そのほとんどは中国産です。日本の伝統文化、伝統技術、伝統産業が中国産漆によって成り立っているという脆弱な構造なのです。何らかの理由で漆が供給されなくなってしまった場合、これまで永く受け継がれ磨かれてきた伝統や技術といったものが失われてしまいます。

和食のように漆はさまざまな日本の文化と密接に関わっており、影響は漆工芸や漆器産業に留まりません。

中国産漆も貴重な天然漆であり、日本の漆文化や伝統、産業にとっては大切なものであることに疑いはありません。私たちは中国産漆を否定する立場ではありませんが、国産漆でなくてはならない分野も存在します。国産漆を増やすことで日本の文化を守り、日本人の誇りを守っていきたいと考えています。

より多くの人に漆の恩恵を広めたい

今や、漆器といえば合成漆器であり、また使い捨てのプラスチック製容器がそのまま食卓に並ぶことも特別なことではなくなり、ライフスタイルの変化によって、漆や本物の漆器の魅力や良さは認識されにくくなり、一般の人々からは縁遠いものとなってしまいました。

漆は酸、アルカリ、熱、湿度につよく、さらに抗菌作用もあり、アレルギーを引き起こすこともありません。また漆や漆器の製造工程においても大量の水や電気を消費することもありませんし、最終的には分解されプラスチックのように残って環境を汚染し続けることもありません。
身体にも安全、環境破壊や汚染とも無縁な極めて優れた素材なのです。

しかし、漆は採取するには手間がかかり、一本のウルシの木から採れる量も僅かです。そのため利用活用を拡大するのは難しいのが現状です。
私たちは、課題を共有する関係者との連携を深め、科学的な知見や最新の技術などを取り入れて、より多くの分野で漆を活用できるようにしたいと考えています。

また漆を使って作られる漆器は何十年にも渡って使い続けることができます。修理ができますので親から子へ、子から孫へと時代を越えて使い続けることも可能なのです。使えば使うほど味わいを増し、経年変化(美化)を楽しみながら愛着を持って使えます。永く使い続けるということはゴミを減らす最強の方法です。

いずれゴミとなって社会や環境に悪影響を与える恐れのあるものではなく、永く使えて環境にも健康にも安全安心なものを使うというライフスタイルへの転換が求められています。

私たちは漆や漆器の魅力や良さを伝え、プラスチック製品から漆器などの天然素材製品への転換を促進すると共に、修理などもしながら良いものを永く使うことでゴミを減らし、海洋プラスチック問題など、環境問題を解決に貢献したいと考えています。

環境省プラスチック・スマートで私たちの取り組みが紹介されています。

自然と共生した社会を実現したい

日本人は日本列島という四季があり森林や水に恵まれ、豊かな陸と海のある場所で、自然の恩恵を受けて暮らしてきました。自然を征服しようとするのではなく、自然を敬い畏れ、自然と共に生きるという暮らし方をしてきました。

先人たちは与えられた土地に少しづつ手を加えながら、何代にも渡って土地を大切に守り、社会も発展させてきました

しかし、現在は人口減少、高齢化社会、過疎化、産業構造の変化、林業の衰退などにより、先人たちが大切にしてきた農地、里山、山林などが放置され、荒廃した土地に姿を変えています。

人間の手の入らない放置された土地は、自然災害を発生させる危険性が高く安全安心な生活を脅かしています。また人間と動物の境界線を消失させ、動物による農業被害や、人が襲われるなど問題も引き起こしています。里山が失われると、食料や木材の供給、生き物の生息、景観、文化の伝承にも悪影響を及ぼします。

都市は空気や水、食料など、健全な地方、農地、山林によって支えられています。私たちはウルシの木の植樹などを通じて、こうした土地の有効活用を図り、里山の保全や住み続けられる生活環境の整備、生物多様性の保全、伝統文化の継承など、自然と共生した社会の実現にも貢献したいと考えています。

私たちのビジョンとSDGsの達成

誰もが漆の恩恵を享受できる自然と共生した持続可能な社会を実現する。

これが私たちが目指している未来であり、ウルシネクストが掲げるビジョンです。

いま世界は数々の重大な問題に直面しています。

2015年、国連サミットにおいて193の加盟国が全会一致で、2030年に向けて持続可能な開発目標SDGsを採択しました。SDGsの17のゴール169のターゲットは貧困、飢餓、ジェンダー、エネルギー、まちづくり、気候変動、環境汚染など多岐に渡っていますが、持続可能な開発目標と名付けられているとおり、このままでは社会が持続できなくなるという重大かつ待った無しの問題ばかりです。

持続可能な社会をいかに実現するか。

これは一部の国や人々だけに関係することでも、取り組めば良いことでもなく、今を生きる我々ひとりひとりが真剣に取り組むべき課題であり、未来への責務です。

私たちは地球が与えてくれる漆という優れた素材としての可能性と、古くから漆を育み、採取し、それを生活、建築、文化、芸術などに活かしてきた日本人の知恵や、自然と共生した生き方に様々な問題を解決する本質があると感じ、これを持続可能な社会の実現であるSDGsの達成につなげていきたいと考えています。

SDGs17番目のゴールは「パートナーシップで目標を達成しよう」です。私たちウルシネクストの活動の基本もここにあります。より多くの方に漆の現状や価値を伝え、共有し、ネットワークを作って社会と漆をつなげ、漆の持続可能性に取組む人を増やし、支援し、社会全体で漆を持続可能なものにしていきます。

私たちは、漆を通じて未来の人々も幸せに生きられる、自然と共生した持続可能な社会の実現を目指します。

公益財団法人お金をまわそう基金の助成先団体です

ウルシネクストは内閣府認定の「公益財団法人お金をまわそう基金」の助成先団体です。

日本の歴史、文化、芸術、技術を支えてきた漆を後世に繋げていくための漆の森づくり、地域振興を目指す事業の公益性やその意義に共感いただき、助成いただいております。

お寄せいただいた助成金は、相模漆の復活で国産漆を増やす植栽事業に活用させていただきます。

皆様からのご寄付、ご支援をよろしくお願いします!