春をことほぐ

文と写真:中根 多香子

三月三日は女の子の健やかな成長と幸せを願う「桃の節句」。
元々は春を寿ぎ、無病息災を祈る厄祓いの習わしです。

私は三姉妹の末っ子で、子どものころは、姉たちとひな祭りのレコードに合わせて歌ったり、ひなあられを食べたり、にぎやかに過ごしました。
娘が生まれてからは、桃の節句とともに日々の成長の喜びを重ねてきましたが、いつの間にか彼女もすっかり大人の女性に。
「今年も私の為にお雛様を飾ってくれたのね、ありがとう」と、素直に感謝の心を伝えてくれ、思わず笑みがこぼれます。

わが家のお雛様はシンプルな立ち雛、伝統的な京雛の並びかたでお殿様を上座にして飾っています。
ある日、東の窓から朝陽がやわらかく差し込み、お殿様を照らす光景にハッとしました。
古来の習わしでは陽が昇る方向が上座とされており、左上位の意味が腑に落ちた瞬間です。

春が近づくと、明るい色の服をまといたくなるように、テーブルにも明るい色の花や器を使いたくなりませんか。
そんな気分に寄り添ってくれるのが「洗朱」の輪島塗、わが家では立春を過ぎたころから少しずつ出番が増えてきます。
洗朱(あらいしゅ)とは、洗いざらしたような、黄みを帯びた薄い朱色のこと。
どこか古風で、気品ただよう佇まいにも惹かれます。
洗朱塗に邪気祓いの力を感じるのは、京都伏見大社の千本鳥居を思い起こすからでしょうか。
私の周りには「漆器なら洗朱色が一番好き」という、洗朱ファンが何人もいるのです。

お重にはちらし寿司とサラダを盛り、そのまま食卓で取り分けます。
お椀には蛤のお吸い物、小皿には菜の花のおひたしを。

春の陽だまりに、桃の花もほころんできました。
いくつになっても心躍る、麗らかなお節句です。

漆塗りの雛道具に料理をお供えして「ひいな遊び」も楽しいものです。

執筆者プロフィール

中根多香子
中根多香子
漆芸プロデューサー / 箸文化大使

JAL国際線CA・要人接遇を経て、YUI JAPAN設立。「うるしのある麗しいくらし」をテーマに、心豊かなライフスタイルを提唱。美しい伝統を大切に、輪島塗、和の作法など日本の美意識を国内外へ伝え続けている。ウルシネクストパートナーとしてSDGsにも注力、漆を通じて平和で持続可能な社会を目指している。

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