漆掻きさんの創意と工夫(1)
漆掻きさんの創意と工夫 1
漆掻きさんの仕事に同行して話をうかがうと、長年の経験に基づく作業等の工夫を拝見し、心に残るものがあります。そのいくつかを紹介します。
「立(た)て」のつくり方
漆掻きさんは、その日に採取するウルシの木を100~150本も用意します。そして、漆液採取のウルシの木の順番を決めています。採取量を多くし効率よく回るためです。
ウルシの木にカンナで傷を入れヘラで採取しても、漆液はまだまだ流れ出てきます。2度目、3度目のヘラが必要になります。そこで、「10本一(ひと)立て」あるいは「一立て10本」と呼び、100~150本をグループ分けしているのです。
ウルシの木が10本あるとすると、1本目から採取しその次は2本目へ、次は3本目へと作業を進めます。10本目が終わる頃には、1本目の傷には漆液が溜まったり流れ出たりしています。そうすると、1本目から2本目へ、3本目へと再度ヘラを使うのです。このように作業するウルシの木10本のまとまりを「立て」と呼びます。ヘラ使いで二巡すると(漆液が良く出る場合は三巡目もあるわけです)、次の「立て」に移動するのです。
近くに生育するウルシの木を10本まとめることは容易に予想できますが、太さや漆の出方(滲出する速さと分量)により一立てが7・8本であったり15本であったりするのです。
また、その日が十立てあるとすると、その立てを回る順番も決めているのです。漆液は、朝と夕方に多く滲出します。漆掻きさんのなかには「朝十時までにその日の半分を採取する」という方もいます。そこで、一番漆液が滲出する立てでその日の最初に作業します。日中は気温が高く傷口の漆は流れやすくなるため、あまり滲出しない立てに移動します。そして、その日の最後は夕方の作業となることから、滲出量の多い立てに回るという具合です。
朝早くから作業する立てを「朝立て」と呼び、滲出量の最も多い木をまとめ、日の出後2~3時間で採取を終えます。次の立ては「二番立て」と呼び、日中の立ては「日中(ひなか)立て」と呼びます。そして、夕方に作業する立ては「宵(よい)立て」といい、朝立てに次いで滲出量の多い木をまとめることになります。
朝夕の湿度や気温により漆液の滲出量が多くなるというウルシの木の生理に対応した漆掻きさんの知恵を見ることができるのです。
執筆者プロフィール
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昭和30年 青森県三戸郡新郷村谷地中に生まれる。
昭和52年 弘前大学 工業試験場 漆工課卒業
昭和52年~ 教職に携わり夏休み中に全国の漆産地を行脚
平成8年~ 平成21年度青森県史編纂調査研究員(文化財部会推薦)
平成28年~平成31年3月 青森県新郷村教育委員会教育長
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