漆掻き作業のいろいろ その1|漆掻き技術(2)

原木の買いつけ

漆掻きを行うためにはウルシの木を確保しなくてはなりません。
一定の地域内にまとまった本数を確保することが理想ですが、原木(げんぼく)がないと言われる今日では年中林業関係者から情報を集めて探しまわり、その都度買いつけを行っている状況です。
漆掻きさんたちはウルシの木を原木と呼んでいます。かつては、

その年の漆掻きを終えた晩秋からの買いつけ交渉であったそうです。

一人の漆掻きさんがその年(一採取期間)に漆液採取の対象とするウルシの木の数を一人山(ひとりやま)と呼び、約500本といわれます。
この本数は、漆掻きさんの年齢やウルシの木の散らばり具合、さらに斜面や平地などの立地状況等に左右されます。

6月10日頃 山立と目立

一人山を準備し、6月に入り入梅の頃になると、山立(やまだて)を行います。
作業内容は、ウルシの木の根元の草木を刈り払うこと、樹幹の長いものには足場を組むこと、採取の道順を決めること、一人山を四分することなどであり、実際の漆液採取に取り掛かる前の段取りの総称です。

山立を終えると、ウルシの木の葉が伸び揃う頃となります。いよいよ傷をつけます。
最初の傷つまり1辺目は長さ1㎝ほどで、その後の作業の目印となる傷です。
この最初の傷の名称とその作業も目立(めたて)あるいは辺付け(へんづけ)というのです。

利き手が右手の漆掻きさんの場合は、ウルシの木に向かって立ち、樹幹の右側地上6寸の位置へ1本、その上方に向かい1尺2寸間隔に4本、あわせて5本の水平な傷をつけます。
左側は1尺2寸の位置から1尺2寸間隔に5本の傷をつけます。
目立は片側5本というものは、おおよそ普通身長の人の手が届く範囲から導かれた数だといいます。山立と目立を同時に一緒に行なう場合もあります。

辺掻のはじまり 「あげやま」

目立を終えると、間3日おいて5日目に、2回目の傷・2辺目をつけます。
最下部の目立部分では目立の上下に2~3㎝の長さで、最下部以外の部分では目立の上方5~8㎜の位置に、2~3㎝の長さでつけます。

2辺目は右側に6本となります。左側も同様です。2辺目を「あげやま」と呼び、「これから山で仕事をするぞ」という意味合いを込めているようで、2辺目から漆液を採取し始めます(2辺目でも採取を始めない漆掻きさんもいます)。

これで辺掻(へんがき)が始まりました。

執筆者プロフィール

橋本芳弘
橋本芳弘
昭和30年  青森県三戸郡新郷村谷地中に生まれる。
昭和52年  弘前大学 工業試験場 漆工課卒業
昭和52年~ 教職に携わり夏休み中に全国の漆産地を行脚
平成8年~  平成21年度青森県史編纂調査研究員(文化財部会推薦)
平成28年~平成31年3月  青森県新郷村教育委員会教育長

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