2019.11.06 漆掻きさんの創意と工夫(5) Tweet 傷のつけ方の工夫(2) 辺の傾き ウルシノキに向かって立ち、カキガマを持つ腕を伸ばして奥にカマグチを入れ、そのまま手前に引いて傷をつけます(辺を立てます)。辺の始まりを辺がしらと呼び、手前のカマグチを樹皮から離した部分を辺じりといいます。 辺を水平に立てることを基本とする方が多いように思います。丁寧な作業では梯子を利用したり、足場を組んだりして水平な辺を追究する姿があります。しかし、作業上、高い部分の辺は手前に下がって傾斜するものが多く見られます。そういう作業では、はじめから手前に傾斜した辺を立てる方が出てきます。流れてきた漆液は集めやすいと考えたわけです。水平な辺は下の部分だけであり、他の辺は手前に傾斜することになります。 辺がしらと辺じりの水平を心がけるものの、どうしてもこぼしてしまいます。そこで工夫した策が、辺がしらから若干下向きに引き中間を過ぎたら上向きに引き上げて辺じりとするものです。それでもこぼすことから、さらに工夫したものがあります。辺と辺の間の樹皮を「しょうじあい」といいますが、下側のしょうじあいの中間を滑らかにして、前回の傷口やしょうじあいに流してカキベラで集めるというものです。 「流し(れ)皮」のこと 滲出する漆液を残さずこぼさずに採取することが採取量の増加につながります。そこで、流れる漆液への対処を工夫する方がいました。水平を心がけた辺でも手前に傾斜するものとなりやすく、辺じり部分から流れ落ちやすいものです。 そこで、辺じりの下側の外樹皮を事前に削り滑らかにしておき、そこに流すというものです。滑らかな樹皮部分ではカキベラで漆液を集めやすいのです。削って滑らかにしておく部分を「流し皮」あるいは「流れ皮」と呼んでいました。初辺の時期は流れないのですが、盛辺になると辺を重ねるごとに流し皮は上方へ動くことになるのです。 流し皮(左の網部分) 傷のつけ方の工夫を記しました。最善のことは分かっているのですがなかなか対処できない。そこで自分なりの策を求める、という傷のつけ方の工夫にどの漆掻きさんも精進しているのです。将来画期的な傷のつけ方に発展移行する可能性があると思うと、とてもわくわくします。楽しみです。 執筆者プロフィール 橋本芳弘 昭和30年 青森県三戸郡新郷村谷地中に生まれる。 昭和52年 弘前大学 工業試験場 漆工課卒業 昭和52年~ 教職に携わり夏休み中に全国の漆産地を行脚 平成8年~ 平成21年度青森県史編纂調査研究員(文化財部会推薦) 平成28年~平成31年3月 青森県新郷村教育委員会教育長 Tweet この記事のタイトルとURLをコピーする 漆掻きさんの創意と工夫(4) 前の記事 漆掻きさんの創意と工夫(6) 次の記事