各地の資料館を訪ねて漆掻き道具を拝見します。そうすると東日本と西日本では違うんだなというものを見いだします。それは、漆液を集めるための容器であり、南部地方ではタガッポウやカキタル、ツッポウ、タルと呼ばれます。この容器の大きさ、容量が明らかに違うのです。南部地方を始めとする東日本では気づかなかったことですが、西日本の容器は大きさ、容量が小さいのです。
タガッポウは、漆掻きさんは作業中常に左手首にぶら下げるものです。側面はシナノキやホウノキの一枚樹皮を用い麦漆で接着し、底板には軽い杉板がはめられ、完成すると円筒形の容器となり、手提げの紐がつけられて使用されます。
自分が計測したものや文献に記されたものを以下に並べます。
地名/名称 | 外径(㎜) | 高さ(㎜) | 最大容量(ml) | 材質 |
三戸/タガッポウ | 145~155 | 243~250 | 大3,961,110 | ホウノキ、樹皮、杉板 |
柏崎/ゴウ | 112~116 | 192~200 | 大1,675,849 | ホウノキ、樹皮、杉板 |
能登/カキツボ | 95~150 | 125~240 | 大小各種あり | |
丹波/ツツ ウルシツボ |
80 | 210 | 小 769,300 | マダケ桧、ベニヤ板 |
吉野/ゴウ | 88 | 165~170 | 小 764,150 | 太竹 |
70 | 145~152 | 小 401,292 | ||
鳥取/ウルシヅツ ツツ |
80~85 | 157~173 | 小 719,747 | アサジ樹皮、杉板、ヒノキ板 |
備中/ウルシヅツ | 小100匁入、150匁入、200匁入、250匁入 | シナノキかホウノキ樹皮 |
- 高さが低くなり使い尽くしたものも考えられます。最大容量は、外径から両側の厚さとして10㎜を減じ、高さも底部分の厚さとして10㎜を減じて求めたものです。
南部地方の漆掻きさんからは、「若いころは木を多く持ち、一日で一貫も採ったことがある」という言葉を幾人からも聞いていました。出稼ぎの越前衆により開発された地域では、何よりも漆液の採取量を多くすることを目指した結果が、タガッポウの大きさに現れているように考えます。
一方、丹波地方では昔から径が小さく長いツツを使います。その理由は、漆は空気に触れると酸化するので良い漆を掻くために空気との接触面を小さくするためであるといいます。
漆液を集める容器は、採取量を確保する場合は大きくなり、品質を求めると小さなものでも用が足りた、と私は考えています。
執筆者プロフィール
橋本芳弘
昭和30年 青森県三戸郡新郷村谷地中に生まれる。
昭和52年 弘前大学 工業試験場 漆工課卒業
昭和52年~ 教職に携わり夏休み中に全国の漆産地を行脚
平成8年~ 平成21年度青森県史編纂調査研究員(文化財部会推薦)
平成28年~平成31年3月 青森県新郷村教育委員会教育長