日本のウルシノキ 原産地・栽培か自生か

ここで漆掻きそのものから離れて、日本でのウルシノキの栽培や漆液の利用、権力者とのかかわりなどについて、文献の記述をもとにしながら自分なりに概観してみたいと思います。お付き合いください。

原産地は日本ではないのか?

今から45年ほど前の多くの文献には、「ウルシ(Urushi) 分布 中国・インド原産。漆液採取のためわが国各地に植栽され、北は北海道に及ぶ。」(『原色木材大図鑑』)などのように、ウルシノキの原産地は中国・インドと記されていました。

30年ほど前のころ、浄法寺町の当時の経験充分な漆掻きさん数名から「中国の漆はくさい」という話を伺いました。かつて中国のウルシノキの苗木を植えたものが生育したので、その木から漆を採取していた年のことでした。熟練の漆掻きさんたちの声を聞いて、「品種は同じなのに採取する漆液がくさいなど性状が異なるなら、日本にも古くからウルシノキが自生していたと考えてもいいのではないか」と勝手に考えていました。

近年の研究成果をみますと、福井県鳥浜貝塚の出土木材のなかにウルシノキがあり、それは12,600年前のものであり日本で最古の植物としてのウルシの証拠であるといいます。また、ウルシ製品としては、北海道垣ノ島B遺跡からベンガラ漆塗り製品が出土し、約9,000年前といわれます。ウルシの原産地は中国の揚子江中・上流域から東北部であると記しています(『URUSHIふしぎ物語』20頁、26頁)。

12,600年前、約9,000年前は縄文時代草創期あるいは早期にあたり、漆液の利用や漆器づくりが始まり縄文文化の基礎の一つを担うものになっていく状況を思い浮かべることができるのです。出土品をみると、今後も年数が遡り最古は更新されるでしょう。原産地の表記は、その地域を限定する方向にあるようです。利用の歴史は古いけれども、残念なことにウルシノキの原産は日本となっていないのです。

栽培か?自生か?

南部地方では、サクラが満開の頃ウルシノキの芽(葉)が伸び始め、6月中旬まで生長します。これは、他の樹木よりも遅い生長です。秋の黄葉は他の樹木の紅葉よりも2週間から1ヶ月も早く、10月上旬には黄葉し、下旬には小葉は落葉してしまいます。他と比べ早いのです。このサイクルでは他の樹木に生育競争で負けてしまい生育できないといわれ、人間の管理が必要であることにつながります。また、ウルシノキの実が落下して地面に落ちても、芽が出て生長しているものは見かけないものです。こうみてくると、人間が手を加えないと維持管理できないものだとなります。

一方、漆掻き作業に同行して、山間部の水が湧き出る場所では「ここには数本だけであり、人が植林したものではない。鳥によって運ばれて生育したウルシノキだ。」と教えられたことが幾度かありました。

執筆者プロフィール

橋本芳弘

昭和30年  青森県三戸郡新郷村谷地中に生まれる。
昭和52年  弘前大学 工業試験場 漆工課卒業
昭和52年~ 教職に携わり夏休み中に全国の漆産地を行脚
平成8年~  平成21年度青森県史編纂調査研究員(文化財部会推薦)
平成28年~平成31年3月  青森県新郷村教育委員会教育長

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