漆掻きさんの創意と工夫(2)

足場の掛け方

田子町でのはしご木

ウルシノキの樹幹に向かい、一般に片側に5本の目立の傷をつけ、その後5しびをつくることは、普通身長の人が地面に立ち手の届く範囲であることから導き出された数であることは、以前記しました。

山野に生育するウルシノキは太さも樹幹の長さも全体の高さも、みなそれぞれ異なります。なかには地表から枝分かれ部分までの樹幹が長く、4~5mにもなるものがあります。このような樹幹の長いウルシノキをみつけると、漆掻きさんは目立を上方まで延ばし採取量を増やそうとします。そこで工夫するものが足場です。

足場を作るために自宅から生育地まで木材を運ぶことがあります。生育地で近辺の雑木の枝を切って利用する場合もあります。足場の柱部分と横木を組むとき釘を使用することがありますし、針金を用いることもあります。(『備中漆掻き』には足場作りについて、特に針金の掛け方が詳しく記されています)かつては藤蔓などを用いたといいます。

簡単な足場は、ウルシノキの近くに柱を立て、ウルシノキから柱へ横木をわたし、その横木の上に立って樹幹の高い部分の採取を行うように作ります。樹幹が太く長い場合は、ウルシノキを囲むように柱を立て、横木を数段にもわたして櫓(やぐら)状の足場を組んで、数人で採取していました。足場を掛けるウルシノキを「はしご木」と呼んでいました。

足場を掛けるとき、作業がしやすいように、部材が折れ自分が落ちてけがをしないように、障害物に引っ掛かり漆液をタガッポウからこぼさないように、強風でも倒れないように、これらを心がけたといいます。

田子町では「足場かんざし」という道具をうかがいました。40~50cmの長さの棒と1m内外の長さのロープで作る簡単なものです。浦目掻作業で、梯子でも届かない高い所に登るときに使用したといいます。

執筆者プロフィール

橋本芳弘

昭和30年  青森県三戸郡新郷村谷地中に生まれる。
昭和52年  弘前大学 工業試験場 漆工課卒業
昭和52年~ 教職に携わり夏休み中に全国の漆産地を行脚
平成8年~  平成21年度青森県史編纂調査研究員(文化財部会推薦)
平成28年~平成31年3月  青森県新郷村教育委員会教育長

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