漆掻きさんの創意と工夫(3)

二重皮ごしらえの工夫

一般にカワムキで外樹皮を削って平滑にした後で、カキカンナで傷をつけるのですが、その間にもうひと手間を加えた作業を行う地域があります。その地域で工夫されたものです。

ウルシノキは樹齢を経て太くなると樹皮も厚くなります。そうなるとカワムキだけでは外樹皮(荒皮)を削りにくくなります。そこで、カワムキの使用後、さらにヘングリを用いて内樹皮まで達する深さまで、中皮ごしらえをするのです。カキカンナで傷をつける前の段階で、二つの道具を用いて2段階に分けて樹皮を整えることから二重皮ごしらえと呼んでいるのです。

用いる道具であるヘングリはナカグリともいい、その削り跡はハコノミと同じと考えると分かりやすいでしょう。カワムキで外樹皮の凹凸を削った後に、傷をつける方向に外樹皮を深く削り取るものです。樹皮が滑らかになるため、その後のヘラ使いは容易であり滲出する漆液を採りこぼすことは少ないといいます。

上はエグリ(アキグリ)、下はヘングリ

その日作業する全てのウルシノキに二重皮ごしらえをしていては、多くの時間を費やしてしまい漆掻き作業ははかどりません。そこで、また工夫します。例えば、1本目にはカワムキとヘングリで二重皮ごしらえをし(カワムキでは次回分も削る)、2本目では前回カワムキで削ってあるためヘングリで中皮ごしらえから始めます。次回は、1本目は中皮ごしらえから、2本目は二重皮ごしらえから始める、という具合です。先の作業を見通した効率のよい方法であると考えました。

ヘングリの使用は新潟県の村上市周辺と柏崎市周辺の2カ所で確認したものです。手間をかけてでも、良い漆液を採取しようとする漆掻きさんの意気込みを感じるものでした。

執筆者プロフィール

橋本芳弘

昭和30年  青森県三戸郡新郷村谷地中に生まれる。
昭和52年  弘前大学 工業試験場 漆工課卒業
昭和52年~ 教職に携わり夏休み中に全国の漆産地を行脚
平成8年~  平成21年度青森県史編纂調査研究員(文化財部会推薦)
平成28年~平成31年3月  青森県新郷村教育委員会教育長

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